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短期集中連載・Hula Dubへの道

第1回・第2回第3回第4回

第1回
『フラのスピリット』

サンディーが生み出した新しい音楽の世界

サンディーは90年代半ばから、フラ・マスターとしてフラの普及と伝道に長年貢献してきた。20年以上にわたる長い活動歴である。そしてそれ以前はと言うと、音楽の世界でソロ・シンガーやグループのフロントとして長年活躍してきたアーティストとしてのキャリアを持つ。こちらのキャリアも70年代からの長きに渡る。そんな彼女がいま、約20年ぶりに“ボーン・シンガー(生まれながらの歌手)”としての自分を蘇らせた。

待望のミュージック・シーン本格復帰作となる『HULA DUB』(3月14日発売)はフラ・マスター、サンディーとダブ・マスター、デニス・ボヴェルの魂の交流から生まれた新たなジャンル・ミュージックの結晶と言えるアルバムである。

サンディーが人生を捧げるフラ、そしてレゲエの大きなサブ・ジャンルであるダブ。この二つはいかにして出会ったのか?

今回の特設ページでは、このアルバム完成に至るまでのサンディーの長い歩みを振り返る短期集中連載をお送りします。4回の連載(予定)で」『HULA DUB』の魅力を知ってください。

そこで、初お目見えとなる第1回目はサンディーの活動ルーツにいつもあり、心と体を支えてきたフラとの出会いを語ってもらいました。

フラに目覚めて

「私のこれまでって、弱点を時間をかけて克服してきた人生なんです」と微笑む彼女は、ごく若い十代以前から自分のことを“BORN SINGER”(歌手に生まれついた)と信じ、早くからその道に入っていた。だが、子供のような年齢から厳しいプロフェッショナルの世界に入れば当然のこと失敗や挫折も多く経験することになる。

「仕事でもプライヴェートでも何かがうまくいかないと自分で自分を責めてしまい辛くなってしまいます。その時に心の内側から助けてくれるのが、踊り、フラ。フラに触れると浄化されて、自分の楽な呼吸ができる、頭の中もクリアーになり、感謝の気持ちが湧いてくる。そんな経験が何度もあって、私を常に見守ってくれていたお天道様、神様はフラの女神だったという気持ちになったんです。自分が、ハイエスト・セルフ(自分の精神の中で最も高位にあるもの)、そして全ての生命の源であるマナ(自然の中にある神秘的な存在)と繋がっていることを一瞬で認識できる方法がフラ。長い間かけて開発してきた佇まいというか、自分の人生の立ち姿ですね。」

Immigrants
「Immigrants」(1982)

One Love
「One Love」(1988)

サンディーが最も精力的に世界を駆け巡るバンド活動をしていた“サンディー&ザ・サンセッツ”時代の80年代。音楽が聴衆に受け入れられる時もあれば、そうではない時もある。「今日は音楽がみんなの心までうまく届かなかった…」そんな、もどかしく、しんどい気分に囚われることもある。

だが、落ち込みをいつまでも抱えているわけにはいかない。すぐに次のライヴが控えている。その時までに新たな気持ちに切り替えるためにサンディーはバス・タイムでのアロマテラピーで心を浄化していたという。

「バスタブに入るときは気持ちとして“一度ここで死のう、そしてもう一度ここで生まれよう”とリセットするんです。体をお湯に浸して気持ちよさがしみ込んでくる。それが私の心の切り替え、再生の儀式だったんです。そして、その時に深い丹田(たんでん)の奥から出てきた歌はいつもハワイアンでした。」

自分の中にハワイアンの血は全く入っていないが、自分の魂はハワイで凄い高度なウィズダム(知恵、賢さ)を授かった。そう信じるようになっていたサンディーは、音楽活動のみの生活に一区切りをつけ、ハワイに戻ってクム・フラ(フラをきわめて指導、普及する伝道師)になるための修行に励む。

Sundii&The Sunsetz時代のサンディー
Sundii&The Sunsetz時代のサンディー
Sundii & The Sunsetz時代のサンディー

「その勉強の過程はともかく嬉しくて面白くて、自分からどんどんマナへの道を学んでいったんです。それはまるで、無我夢中で突き進んできた自分の過去を螺旋階段の上の見晴らしの良いポジションからもう一度よく見直して、学びを再度確認することができる、とてもワクワクする体験でした。
悲しいことだけど人間、痛い思いをすることからこそいっぱい学ぶんですよね。そんなことも分かるようになって、初めて少しずつでも自己リスペクトができるようになりました。今まで巡り会えた全ての人々は、いつの間にか自分の内側を覗かせてくれる貴重な魂の鏡となって常に自分を磨いてくれます。人生のおもしろさや愛することを学ぶ色鮮やかさを日々体感させてもらっています。オノ・ヨーコさんの言う「Love yourself」の心が良く理解できるようになりました。「Be true to myself」という言葉が心に響くようになって……。そのおかげでやっと、疲れたときには『疲れた』と周りに素直に言えるようにもなったし(笑)。」

数年前に大病を克服したサンディー。そんな今だからこそ、フラの持つ優しいパワーをさまざまな形でみんなに伝えたい思いが強く湧き上がってきた。

「振り付けや、私が習ってきたハワイの秘儀をみんなとシェアできるように、私の歌を通じて、音楽でフラの心を伝えることができればと思います。私がチェット・ベイカー※1の歌に、彼の没後のいまでも救われるように、説明抜きに深い思いを伝えられる一番の手段は音楽だと思うんです。トロピカル・ブリーズの中の花の香りが躍っているようなフラの心を歌と踊りで表現したい。『心のパラダイスで会いましょう』ってよくコンサートで言うんですけど、それを生徒さんが体現できるように指導したいと思って教室をやっているんです。」

今の心境

「これまでの人生、いろいろな素晴らしい人々と交流したことが今の私を作っている。私の表現を通して、これまでの出会いの『点』を『線』にしなければと思います。でもそのために『やらなきゃいけないんだ!』と力んで無理するんじゃなく、自分の素直な感情が生理的に楽なところにスパッとハマらないと才能も発揮できないと思う。力が抜けてる方が力が出るというか(笑)。」

今回いっしょにアルバムを作ったデニス。
そしてスピリチュアルでポップな音楽への道を示し開いてくれた細野晴臣。
そのほか、シンガーとしてのサンディーの魂に影響を与えてくれた多くのアーティストたち。
みんながサンディーの才能をあるべき場所に導いてくれた。

次回は、そんな“注目すべき人々との出会い”を語ってもらおう。

※1 チェット・ベイカー(1929-1988) ジャズ・ミュージシャン。トランペット奏者、ヴォーカリスト。代表作に「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」など。

(取材・文/田山三樹)

Sandii’s Visual Discographyはこちらかご覧いただけます↓↓
http://www.sandii.info/Visual_Discography/Welcome.html

田山三樹 (ライター/編集)

編著に『NICE AGE YMOとその時代 1978-1984』(シンコーミュージック・エンターテイメント)、編集担当コミック単行本に『マリアナ伝説』(ゆうきまさみ・田丸浩史/共作)『ディア・ダイアリー』(多田由美)など。サンディーが80年代中頃まで在籍したアルファ・レコードについての読み物『アルファの宴』を『レコード・コレクターズ』誌で連載していた。